消火訓練(操法)のありかた (参考)
標準作業手順
現場に到着したらどのように行動するのかという手順を標準作業手順(SOP)という。日本の消防団が訓練しているポンプ操法はじつはこの標準作業手順とはまったく違うものであり、単なるポンプの取り扱い方法にすぎない。この標準作業手順を消防団員が理解することにより消防現場で必要とされる指揮、消火、救助作業(トラック作業とも呼ばれる)の3つの要素が結び付けられる。
ここでは、この3要素のなかの消火について説明する。
放水の前に
燃える家屋に水をかけるときにはその建物がどの様に建設されて火災時にどのように燃焼するのかを理解することが大切。建物は火災時には物理的に破壊されるのだ。消防指揮者は家屋侵入が可能か、燃える家屋はいつまで耐えられるか、その建物の強い部分は、弱い部分はどこかを迅速に判断しなければならない。
さらにあなたは炎の動きを正しく予想できる能力を身につけることが必要。炎の動きを理解すればいま何が起きていてこれから何が起こるかがわかる。このことが安全、戦略、そして資源の利用に影響する。この炎の動きを理解することが操法でまず必要なことである。
熱 物質が燃焼するときに出す熱の量は以下の3つの要因が影響する。
・ 燃焼物が熱と酸素に曝されている量(the state of subdivision)。
・ 液体の表面積(可燃物が揮発する場合)。
・ 燃焼物の熱伝導で、燃焼する際の放熱に影響する場合。
密閉空間で熱の層ができる。天井や上部は温度が高い。フロアを覆う材質より天井や壁の表面の材質の方が問題となる。消防の事前調査では建物内部に使われる材質の燃焼度合を無視してはいけない。ラスベガスのMGMグランドホテルの火災の場合、天井に使われたプラスチックの材質が炎の動きを大きく左右した。
ノズルから出る水が熱の層を大きく変え室内の温度は均一化される。フォグ状態のノズルから出される霧状の水が加熱され(水蒸気となり)被災者と消防団員の生命に危険を及ぼす可能性がある。(このことは消防大学で論議された。)防備服とエアパックは絶対に必要だ。
ロールオーバー
火や炎の先端が実際に燃えている物質の前に吹き出す現象。可燃ガスが燃焼している物質から吹き出されるときには酸素と混合されなければ燃えない。燃えている物質は大量の空気(酸素)を消費しているため、室内の上部には吹き出された可燃物を全て燃やすだけの空気(酸素)がほとんど残っていない。この可燃ガスを大量に含んだ空気は炎により形成された熱の層により燃焼物の全面に押し出され、炎から70センチくらい離れても燃焼しない。 多くの場合、炎が天井の高さで2~3メートルも炎の本体からロールする。この現象は可燃ガスを多量に含んだ空気が炎の全面に押し出される。燃焼点に達したら(空気と可燃ガスの混合)燃える。これが炎が這うように見える理由だ。
フラッシュオーバー
燃焼物が熱の伝導や放熱あるいはその両方により点火されること。室内の燃焼物質は燃焼ポイントまで熱せられて瞬間的に燃焼する。エリア全体が燃焼ポイントまで加熱されていていつ炎に包まれてもおかしくない状態。フラッシュオーバーが起こる兆候は、極端な熱、燃える炎 (free-burning fire)、まだ燃えていない物質から煙が出ている、ノズルから出るフォグがすぐ水蒸気に変わる。フラッシュオーバーを少なくするために、熱が換気と放水により早期に逃がされなくてはならない。
バックドラフト
燃焼が進む過程に於て酸素が不足するとその可能性が生じる。これはスモーク爆発とも呼ばれる。フラッシュオーバーとバックドラフトの違いはそこの酸素の量である。フラッシュオーバーでは燃焼のための酸素は十分にあり、フラッシュオーバーには炎が存在している。
バックドラフトの場合は燃焼するためには十分な酸素がなく、火はくすぶっている。これは酸素欠乏状態。ほとんどの火災では十分な酸素がありバックドラフトを起こす状態は低い。しかし、酸素が消費されてしまい、炎がくすぶり状態になると、火災現場に酸素欠乏の空気の状態ができる。この様な状態が進むと、一酸化炭素や炭素粒子の煙や浮遊物が製造される。これらは酸素と反応を起こす。この状態ではもし酸素が建物内部に侵入すれば爆発する危険がある。蓄積したガスは瞬時に点火し、炎をつくり激しい爆発が起こる。部屋の温度が上昇することにより、燃焼物質はその発火温度以上に熱せられ点火寸前の気体と変化している。この物質が燃えるために必要なのはあとは酸素のみである。
バックドラフトの状態があり、室内の気圧が正常に戻る前に酸素が侵入すればその爆発で消防団員とホースは吹き飛ばされる。バックドラフトの可能性は建物、部屋、屋根裏あるいは密閉空間なら何処でもある。最重要項目は換気だ。バックドラフトの可能性がある場合は消防団員が屋内に侵入する前に換気が行われなければならない。
ファイアー・フロー
建物の火災でそれを鎮圧するために毎分に必要な水の量は次の公式で割り出す。[縦の長さm]×[横の長さm]×14 (リットル/分) 例えば縦9m×横24mの建物が燃えているとすると、その建物内部に進入し消火する場合に必要な水量は、9×24×14=3024リットル/分となる。この計算に部分の火災や延焼など考慮に入れる場合はその%を追加するだけでよい。例えば上の例で建物の25%が燃えているとすれば3024×0.25リットル/分が必要な水量だ。その建物に2階があるとすればこの数字にさらに3024×0.25(2階分)を足せばよい。炎で気が動転しているときにはこのような計算で即座に必要な水量を割り出すのは便利だ。
放水の注意点
消火作業の注意点はいろいろある。まずホースをどこへ延ばすかだ。そして捜索救助、家財保護、電気ガス管理、原因調査を同時進行させる。重要な水利確保のためには水源の場所、利用可能水量、ポンプの性能そして人員の数が戦術に影響する。 消防団幹部はどこに第一水利があるか、そしてもし第一水利が利用できない場合はどのように第2水利を確保するかを判断する。現場で最初に利用できる水利は消防自動車が積載しているタンクの水だ。もし「消防自動車積載のタンクの水でほとんど鎮火できた」らそれにこしたことはない。水がなくなる前に火が消えればよいが、そうでないと建物内部に進入している消防士の命が失われる危険性が生じてくる。
だから、その火災を鎮圧するのに積載タンク水が不十分と判断したら、次の水利を確保するまでは消防団員を建物内部へ進入させてはいけない。 できれば消火栓に水を供給する主ポンプは2つあるほうがよい。(水道局) 消防団員は消火栓の位置と、そこへの水道管の給水経路、水圧が低い地域、水量、上水道システム全体の能力を知っていなければならない。消防団と役場の水道課は連絡をとり、大きな火災が発生した時には水道課はその地域の水圧を大きくする。水道課はまた消火栓の修理時は必ず消防団員全員に連絡する。
ドラフト
残念ながら全ての火災は消火栓のとなりで起こるとは限らない。その場合、池、川、プール、かんがい水利、貯水池などから水をとる。この場合消防自動車が入れないような場所では可搬ポンプが役立つ。 タンク車は水利のないところへも水を運べる。1台のタンク車で水が十分ではない場合は2つ以上のタンク車をシャトルさせる。タンク車が不足する場合は建設会社の車両、役場の散水車、給水車等を利用する。業務目的で貯水層を持つ工場がある。この水を利用することを事前調査で考えておく。
水利の信頼性:
1)必要なときにそこになければならない。
2)必要なときにとれなければならない。
3)必要な時間内に必要な量がとれなければならない。
全てのポンプには能力がある。しかしこれは限界という意味ではない。毎分1トンというポンプでも適切な水利があればこれ以上の能力が出る。 最後に水の供給の際に最も重要な要素となるのは消防団員の数である。大きな火災では水が不足する前に消防団員が不足する。この場合には幹部は団員を危険な状態におかないように注意する。適切なホースやノズルの選択も水の供給に影響を及ぼす。そして最後に、防護服とエアパックなしで内部消火は決しておこなってはならない。
先を読んで車両をとめる
消防自動車をあまり火の近くにおくと、類焼の危険がある。これはまた応援部隊が到着する場所とまた火の勢いが増したときに消防自動車を避難させる場所をふさいでしまうことになる。市街地では交通渋滞を起こすような場所には消防自動車をとめない。その渋滞のために次の消防自動車が到着するのを遅らせることになりかねない。一度消防自動車をとめて放水を始めたら、移動することは難しくなりまた時間を無駄にする。もし駐車した場所が不適切だと判断したら最初にすぐ動かしておく。以下にまとめてみる。
・ 建物が全焼することを前提に消防自動車を配置する。
・ できれば、建物の高さプラス6メートル離して崩壊に備える。
・ 他の消防車両に道を開けておく。 ・ 避難路を確保しておく。
・ もしあれば、はしご車は建物の角にとめる。
ホースの選択
ポンプまでのホースをサプライラインと呼ぶ。これは必要な水量を十分に送れることが大切。ポンプから水を送るホースをアタックラインと呼ぶ。アタックラインのサイズは、火の大きさと消防団員の数により決まる。普通アタックラインを延ばすのは2人だ。そしてポンプオペレーターとサプラインライン担当者にはアタックラインを保持して屋内に進入する消防団員を手伝う余裕はないと考えた方がよい。
消防団員のあなたなら空のホースがどれだけ重いかわかるだろう。もし長さ20メートルで径が65mmのホースに水が入っていればその重さは66キロにもなる。ホースの自重と合わせて74キロとなる。このホースを2本から3本つないで家屋進入を図るわけだから消防団員の数がホースの種類を決定する要因にもなるわけだ。ホースの径が増すほど水の重みが増し、水圧が上がるほどノズルへの反動が大きくなる。この2つの数字が上がれば上がるほどライン保持をする消防団員の数が多くなる。
ラインの選択ができたら、次はそのラインをどこへ持っていくかだ。これは指揮者が状況判断で決めることであるが、この決断は消防団員の安全に関わることであるから十分注意する。内部に捜索隊が存在するときは外から中へ炎や煙や熱を入れないこと。基本はラインを火点と捜索隊の間におくこと。
屋内アタック(攻撃モード)
最も効果のある消火方法は積極的な屋内アタックだ。炎を燃えていない部分から燃えている部分に押しやる。ライン進入は換気、捜索、救助、家財保護、その他のラインを考慮にいれておこなう。ラインは燃えていない部分から進入するのが原則であり、2階から進入する場合はロープでラインを引っ張りあげる。
基本的に全ての初期行動は人命救助のために行う。被災者と火点の間にはいり炎を閉じ込めることにより人命救助のサポートをする。もし火点に炎を押え込めば人命に対する危険は減ることになる。放水するときには人命救出をまず念頭において行う。絶対に燃えている場所から燃えていない場所へ炎や有毒ガスを送り込んではならない。
人命の保護が確認できたら消防団の活動により家財が破壊されることを最小限に抑える。戦術の目的に家財保護が入っていなければならない。
常に脱出路を確保しておく。防護服、エアタンク、携帯用個人警報装置を装備し2人組で行動する。
屋外アタック(防御モード)
消防団の資源と能力を越える火災であれば屋外アタックに切り替える。この場合にはホースの径が太くなる。多量の水が必要となるため水利確保が重要となる。屋外攻撃には大きな消防自動車が必要となりホースも何本か使う。これらは水が出るまで時間がかかる。短時間に放水できる訓練を行うことが大切。
延焼を防ぐために、燃えている側に多量の放水をするか類焼の危険がある側に放水する方法もある。
消防団員と消防自動車の避難路を確保しておく。防護服はかならず着用する。放射熱、危険物、あらゆる方向からの放水に注意する。
消防団員に電気ショックやガス爆発の危険がないかどうか確認する。消火作業を急ぐ気持ちはわかるが、これらの安全確保は最初に行われなければならない。
火災現場の消防団員全員が作業中に火災原因を捜さなければならない。火災が放火である場合は数カ所に火点があることが考えられ、また火の回りも早い。消防団員の危険は増す。日本の消防団は1tの水槽を全ての消防自動車に積載せよ アメリカは国土が広いから日本のように消火栓が発達していない。それでアメリカの消防署(消防団)には水槽を積載した消防自動車が多い。最低でも1トンの水槽を積載している。ポピュラーな消防自動車は4トンの水槽を持つ。
日本では消火栓が発達しているので、水槽を積載していない消防自動車が多い。しかし今回の阪神大震災では、肝心の消火栓が使用不能になった。もしヘリコプターを使わないのなら、水利を海やプールなどに求めなければならない。その場合は消防自動車を何台も連ねることになるのだが、これがなかなか大変な作業である。私は日本の消防は消火栓に頼ることなく、消防自動車に水槽を積載することが急務だと考える。消火栓より積載タンクの水の方が早く放水できることは明白である。放水はフラッシュオーバー現象が発生する前に開始しなければ、人命救出はより困難なものとなる。現場到着と同時に放水するには、消防自動車にタンクを積載していることがどうしても必要になる。
アメリカには1トンの水槽をピックアップに積載し、巻いた状態でもつぶれないホースを使用した消防車両がある。1トンの水とてバカにはできない。8畳の部屋では水深が7.5センチにもなる一般用スプリンクラー1ヶからは12分間、家庭用スプリンクラーからは35分間散水できる水量だ。消防団員はフラッシュオーバー発生までに現場に到着し、35ミリ径ホースを使用する攻撃消防(Offensive Attack)の能力を身につけるべきだ。これは操法大会で使う65mm径ホースの防御消防(Defensive Attack)より捜索援助と初期消火で優れている。消火栓は積載タンクへの給水用、可搬ポンプも中継給水用とみなすべきだ。
日本の消防の伝統である「ポンプ操法」は世界に類をみない訓練方法だ。しかしこの大会披露用、来賓鑑賞用、出初式ハシゴ乗り現代版ともいえる「ポンプ操法」は、悲しいかな実践性に欠けている。ボランティアである消防団員の貴重な訓練時間がムダに使われているのだ。日本の消防は、阪神大震災の教訓を生かして、人命救助を組み入れたOffensive Attackを訓練に導入する必要がある。日本の消防団は市民に期待される災害対策組織となるのか、あるいは日本の風物詩としての伝統芸能でありつづけるのか。いまその決断が求められている。 以上
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